うべの時空代数

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#0 幾何代数とは

幾何代数は物理法則を最も美しく纏めることができる代数である.例えば電磁気学だと
マクスウェル方程式
F\mathrm{D}=-J
ローレンツ
ov\otimes F
のように無駄なく表現できる.
第0講はそんな幾何代数について話そう.

前提知識

幾何代数を学ぶにあたって確認しておきたいことを述べる.

複素数

虚数単位とよばれるi^2=-1を満たすiと2実数a,\ b
a+bi
と表されるものである.基底\{1,\ i\}の線型結合と考えることもできる.

双曲複素数

これは先程の複素数に似ているが少し違うものである.これもまた虚数単位とよばれるj^2=1を満たすjと2実数a,\ b
a+bj
と表されるものである.j^2=1と聞くと\pm1を想像するがjは実数の元ではない.これもまた,基底\{1,\ j\}の線型結合と考えることができる.

概要

幾何代数とはクリフォード代数ともよばれ,実数や複素数,双曲複素数をさらに拡張したものである.どのように拡張したか簡潔にいうと,あるルールを加えて,複素数や双曲複素数虚数単位を幾つも増やしたものである.

虚数単位の性質

ここで幾何代数を特徴付ける重要な式を示す.幾何代数の虚数単位のルールを表しているものだ.mnには適当な自然数が入るが虚数単位が複数あるので区別するための添字である.
{{\gamma_m\gamma_n+\gamma_n\gamma_m}\over2}=\begin{cases}1,\ -1&(m=n)\\0&(m\neq n)\end{cases}
これを読み解こう.
まずm=nのときを考える.nmを代入して式変形すると,
\gamma_m^2=1,-1
になる.つまり複素数や双曲複素数同様,虚数単位の2乗は-1または1になる.
続いてm\neq nのときを考える.両辺2倍して左辺第2項を移項すると,
\gamma_m\gamma_n=-\gamma_n\gamma_m
になる.あるルールとはこのことで,異なる虚数単位の積を交換すると負になるのだ.つまり虚数単位は反可換性をもっているといえる.
このルールを虚数単位にもたせたことによって虚数単位を幾つでも用意できるようになった.言い換えると複素数虚数単位をm個,双曲複素数虚数単位をn個といったように幾つも代数を作れるようになったわけである.そこでそれぞれの代数を区別するために,実数や有理数の集合を文字で置くようにそれぞれにラベルを貼りたいわけだが,
GA(2乗が1虚数単位の個数, 2乗が-1虚数単位の個数)
と表す.GAとは,Geometric Algebraの頭文字である.

幾何代数の次数

さて実際この様な虚数単位を含む代数の元はどのようになるのか.例に2乗が1虚数単位が2つ(\gamma_1,\ \gamma_2),2乗が-1虚数単位が1つ(\gamma_0)の代数GA(2,\ 1)を考えてみよう.この代数の元は
a+b\gamma_0+c\gamma_1+d\gamma_2+e\gamma_0\gamma_1+f\gamma_0\gamma_2+g\gamma_1\gamma_2+h\gamma_0\gamma_1\gamma_2
となる.
基底元を構成する虚数単位の数を次数やグレードという.また,次数がnであることをn次であるという.つまり上記の2次である部分といえば
e\gamma_0\gamma_1+f\gamma_0\gamma_2+g\gamma_1\gamma_2
となる.

幾何代数の代数的性質

幾何代数の演算,すなわち加法と乗法は
\{a+b\}+c=a+\{b+c\}\\a+b=b+a\\ \{ab\}c=a\{bc\}\\ab\neq ba
を満たす.
加法については結合性と可換性をもつ.実際の計算では複素数で実部どうし虚部どうし足したように,同じ基底の成分同士を足せばいい.
乗法については結合性こそもつが,一般に可換でも反可換でもない.適当な幾何代数をつくって1次の元同士で確かめてみるといい.幾何代数の元の積は幾何積やクリフォード積と呼ばれる.なにも断らなかったがabのように演算子は省略して元を並置して表される.
また幾何代数は分配性をもつ.
\{a+b\}c=ac+bc\\ a\{b+c\}=ab+ac
さて除法の性質にも注目してみよう.まず分子が1の場合つまり乗法的逆元を考える.幾何代数の0でない元aに対してab\in\mathbb{R}\land ab\neq0を満たす幾何代数の元bがあるとき,
{1\over a}={b\over ab}
と分母を実数化するとこができる.複素数のときはba複素共役であった.しかし,逆元がその幾何代数に存在しないような元もある.例えばGA(1,\ 0),つまり双曲複素数の元1+jは,
\left\{1+j\right\}\left\{a+bj\right\}\\=a+b\\+\left\{a+b\right\}j=1\\\begin{cases}a+b=1\\a+b=0\end{cases}
であるためGA(1,\ 0)に逆元をもたない.逆元をもつことを可逆であるいいその元を可逆元という.非可逆な元で割ることは禁止される.0は非可逆であるためこれは0除算の拡張である.同じように禁止されている演算がある.それは非可換なa,\ bに対して
a\over b
とすることだ.これはa{1\over b}なのか{1\over b}aなのかはっきりしないのだ.また,
{1\over ab}=(ab)^{-1}=b^{-1}a^{-1}={1\over b}{1\over a}
となることに注意しなければならない.

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