うべの時空代数

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#1 空間代数と物理量

当ブログで使われる記法や表記,記号
https://ubeyuto.hatenablog.com/entry/_1
第0講では幾何代数を説明した.第1講からはその幾何代数の中でも特にGA(3,\ 0)の性質を説明する.GA(3,\ 0)をこのブログでは空間代数とよび,3Dと表すことにする.一般には双四元数とよばれるものである.この代数は3次元空間と密接な関係を持つ.

空間代数の次数と物理量の種類

空間代数は2乗が1虚数単位3つ(これからは断り無く\gamma_1,\ \gamma_2,\ \gamma_3といったとき,空間代数の虚数単位を指す)で構成されるため,任意の元は
a+b\gamma_1+c\gamma_2+d\gamma_3+e\gamma_{23}+f\gamma_{31}+g\gamma_{12}+h\gamma_{123}
と表される.つまり計8個の実数(成分)で1つの元が決まる.実はこの8個の成分,各次数で様々な3次元空間での物理量の種類に対応している.纏めて表に示す.

次数 物理量
0 スカラー 長さ、温度、エネルギー、質量、電荷
1 ベクトル 位置、速度、運動量、力、電場
2 擬ベクトル 角速度、角運動量、トルク、磁場
3 スカラー 磁荷(未発見)

1次の基底は基本ベクトル,2次の基底は基本擬ベクトルとみることができる.擬ベクトル・擬スカラーはのちの講義で説明する.空間代数の利点はスカラーと擬スカラー,ベクトルと擬ベクトルを区別できるだけでなく,それらを足しても混じらないところにある.

内積外積

空間代数の元はスカラーやベクトル等と対応することがわかった.幾何代数の和は同じ基底の成分同士足せばいいので確かにベクトルらしい.スカラーに対応する0次も自明ではあるが分配則が成り立つため,1次や2次の元に乗ずるとスカラー倍になりスカラーらしい.擬スカラー倍という概念はあまり知られていないが,3次の元を1次や2次にかけると1次は2次に,2次は1次になりそれぞれベクトル・擬ベクトルに対応するため擬スカラーらしい.
以下の計算の見通しが持てるように注意しておくと\gamma_{123}3Dの任意の元と可換でその2乗は-1である.では1次や2次の積を求めたらベクトルらしい結果になるのか確かめてみよう.

1次と1次の積

3D(1)の2つの元a,\ bの積を求めてみる.
a:=a_1\gamma_1+a_2\gamma_2+a_3\gamma_3\\b:=b_1\gamma_1+b_2\gamma_2+b_3\gamma_3
ab=\left\{a_1\gamma_1+a_2\gamma_2+a_3\gamma_3\right\}\left\{b_1\gamma_1+b_2\gamma_2+b_3\gamma_3\right\}\\=a_1b_1+a_2b_2+a_3b_3\\+\left\{a_2b_3-a_3b_2\right\}\gamma_{23}\\+\left\{a_3b_1-a_1b_3\right\}\gamma_{31}\\+\left\{a_1b_2-a_2b_1\right\}\gamma_{12}
これをよくみてみると2行目,つまり0次の部分はab内積に,3~5行目,つまり2次の部分はab外積になっている.つまり
ab=a\cdot b+a\times b
と言った具合に表せる.逆にa\cdot ba\times bを幾何積で表すと
a\cdot b={{ab+ba}\over 2}\\a\times b={{ab-ba}\over 2}
となる.確かめてみてほしい.これの何が凄いか述べると,内積外積を幾何積1つで表現できることだ.abを交換してみると
b\cdot a=a\cdot b\\b\times a=-a\times b
となり,しっかり内積外積の性質をもっていることがわかる.幾何積で表すと一目瞭然である.注意する点は外積で得られたベクトルは2次であることだ.空間代数ではこの違いを厳密に扱う.

2次と2次の積

3D(2)の2つの元a,\ bの積を求めてみる.計算をしやすいようにa,\ bと同成分の1次の元\tilde{a}\tilde{b}を用意する.これらはab-\gamma_{123}を乗じれば得られる.これらを使うと1次同士の積になるため計算が楽になる.
a:=a_1\gamma_{23}+a_2\gamma_{31}+a_3\gamma_{12}\\b:=b_1\gamma_{23}+b_2\gamma_{31}+b_3\gamma_{12}\\ \tilde{a}:=-\gamma_{123}a,\ \tilde{b}:=-\gamma_{123}b
ab=\tilde{a}\gamma_{123}\tilde{b}\gamma_{123}=-\{\tilde{a}\cdot \tilde{b}+\tilde{a}\times\tilde{b}\}\\=-a_1b_1-a_2b_2-a_3b_3\\-\left\{a_2b_3-a_3b_2\right\}\gamma_{23}\\-\left\{a_3b_1-a_1b_3\right\}\gamma_{31}\\-\left\{a_1b_2-a_2b_1\right\}\gamma_{12}
下から4行目は1次,3~1行目は2次になっている.これらも
ab=a\cdot b+a\times b
a\cdot b={{ab+ba}\over 2}\\a\times b={{ab-ba}\over 2}
と表される.注意する点は\tilde{a}\tilde{b}とは-1倍違うところである.空間代数では1次同士の内積外積と格好が違うことがあることに注意しなければならない.

1次と2次の積

3D(1)の元a3D(2)の元bの積を求めてみる.
a:=a_1\gamma_1+a_2\gamma_2+a_3\gamma_3\\b:=b_1\gamma_{23}+b_2\gamma_{31}+b_3\gamma_{12}\\ \tilde{b}:=-\gamma_{123}b
ab=\gamma_{123}a\tilde{b}=\gamma_{123}\{a\cdot \tilde{b}+a\times\tilde{b}\}\\=\left\{a_1b_1+a_2b_2+a_3b_3\right\}\gamma_{123}\\-\left\{a_2b_3-a_3b_2\right\}\gamma_{1}\\-\left\{a_3b_1-a_1b_3\right\}\gamma_{2}\\-\left\{a_1b_2-a_2b_1\right\}\gamma_{3}
下から4行目は3次,3~1行目は1次になっている.これらも
ab=a\cdot b+a\times b
a\cdot b={{ab+ba}\over 2}\\a\times b={{ab-ba}\over 2}
と表される.注意する点は先程とは次数が異なることと,ab外積a\tilde{b}外積,つまり1次同士の外積とは成分が-1倍違うところである.

2次と1次の積

3D(2)の元a3D(1)の元bの積を求めてみる.
a:=a_1\gamma_23+a_2\gamma_31+a_3\gamma_12\\b:=b_1\gamma_1+b_2\gamma_2+b_3\gamma_3\\ \tilde{a}:=-\gamma_{123}a
ab=\gamma_{123}\tilde{a}b=\gamma_{123}\{\tilde{a}\cdot b+\tilde{a}\times b\}\\=\left\{a_1b_1+a_2b_2+a_3b_3\right\}\gamma_{123}\\-\left\{a_2b_3-a_3b_2\right\}\gamma_{1}\\-\left\{a_3b_1-a_1b_3\right\}\gamma_{2}\\-\left\{a_1b_2-a_2b_1\right\}\gamma_{3}
下から4行目は3次,3~1行目は1次になっている.これらも
ab=a\cdot b+a\times b
a\cdot b={{ab+ba}\over 2}\\a\times b={{ab-ba}\over 2}
と表される.先程とは\gamma_{123}3Dの任意の元と可換であるため同じになることがわかる.

まとめ

1次または2次の元の幾何積は2つの次数にわかれることがわかっただろうか.内積が次数の低い方、外積が次数の高い方とは一般的にはいえないが,空間代数では可換な方が内積,反可換な方が外積といえる.空間代数では1次または2次の元a,\ b内積外積
a\cdot b:={{ab+ba}\over2}\\a\times b:={{ab-ba}\over2}
と幾何積を使って定義される.

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